『Bioshock』"ゲーム”の常識とプレイヤー心理を利用してきた良いシナリオ
今更レビューなんて恐縮だが、読んでくれたまえ。
『Bioshock』は冒頭に無線が飛んで来る。
「大丈夫、君を放っておいたりはしない」
まだ、そのゲームのルールも分からない時、多くは登場人物の一声でストーリーを進めていく。いわばチュートリアル、ナビゲーションみたいなもんだ。
TRPGだって、ゲームマスターの一言でゲームが展開していくのだから従って当然。それがゲームのルールと言える。
飛行機が大海原のど真ん中に墜落し、命からがら逃げた先でラプチャーという架空の海底都市に迷い込み、安全だと思った潜水球の窓を覗くと化物に襲われて人が死ぬ光景が広がる。
そんな地獄に次ぐ地獄の状況の最中に聞こえて来たのが冒頭の無線なのだからすがるしかない。
その声に従って俺は化物を倒し、開かずの扉を開け、ハッキングをし、ラプチャー内を実に楽しく気ままに制圧していく。
先に進めると右手に装備した銃器と左手の超能力「プラスミド」が増えて少しずつ強くなっていくカタルシス。通れなかった所が開く謎解きの快感。所持金や弾薬がマックスになるほど探索しまくっている様は、実に王道のFPS系のアクションRPGを楽しんでいた。
そんな『Bioshock』の世界観にハマっていた頃に伝えられるのが「主人公は操られていた」という事実。
プレイヤーは「無線の主の言うがままに行動していた操り人形だったという事」だ。
それも「恐縮だが」という枕詞を使った時だけ命令として実行するように予め組み込まれていたと告げられる。
ゲームとしては無線の主に従うしかないのだから卑怯な裏切りでしょ……では一切なく、
化物が徘徊するラプチャー内を支配する存在が冒頭からしっかりと説明されていたので、それを倒す仲間としての印象が強くあった。むしろ行動に行き詰まったら手助けしてくれる存在。無線の主をしっかり味方とした上での裏切りだから驚くと同時に、ゲームの常識を疑わせる作りに感動した。ネタバレまでの導線がとても上手い。自然と行動し、自然と強くなり、自然とネタバレまでやってきていた。
ゲームとしてはそこで終わりではなく、今度は無線の主を倒しに「自分の意志」で行動していくので、ある意味で本当の『Bioshock』はここから始まる。
とても面白かった。ゲーム内で悪人プレイ的な事が出来ない俺は、当然リトル・シスターを全員救出した上でクリア。
誰にも操られていない自分が選んだ人生を謳歌した映像の締めくくりは、リトル・シスターたちに看取られながら生涯を終えていく。まさに「ビッグダディ」。
銃器と超能力が使えるので勝手にハチャメチャ系のFPSだと思っていたが、中身はホラー映画の要素を数多く取り入れて新鮮だった。
・ライトに照らされ壁に映る影が猟奇的な動きをしている
・BGMが少しずつ大きくなっていき、クライマックスで敵が突然出てくる
・通った道を振り返るといなかった筈の敵が出現する
・敵が陽気でクレイジー 口歌しながら彷徨っている
・こちらを見付けると全速力かつ一直線に突っ込んでくる
とくに影と音の使い方が上手く、壁に映る影に気を取られていると背後から襲われたり、予想外の一撃を受けたりする。
音楽がなり始めると警戒して動きを緩める。敵の口笛に緊張が走るなど、恐怖を煽る演出が上手い。
またエリア内を徘徊する強敵「ビッグダディ」の存在もあり、探索が慎重になる所もホラー映画っぽくあり雰囲気が良かった。
PS3時代にライター仲間がプレイしているのを見ており、いつか遊ぼうと思っていたがこの時期になってしまったが、遊べて良かったゲーム。